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vol.74 cineca・土谷みおさん
-たどり着いたのは、映画から生まれた儚くも美しいお菓子

美しくてユーモアたっぷり。映画のストーリーを元に生み出される「cineca(チネカ)」のお菓子は、小石にしか見えないラムネ、猫のドライフードのようなクッキーなど驚きを与えるものから、宝石のように美しいものまで個性豊か。それぞれの世界感をもった繊細なお菓子たちは、もはや食べられる「作品」。土谷みおさんの鋭い感性とその世界から生み出される作品たちにそっと耳をすませば、ほら、そこに秘められた物語が聞こえてきます。(2017年12月09日作成)

写真:川原﨑宣喜 文:Amorpropio編集部

小さな白い箱がひとつ。
本の形をした箱の背表紙には「NUDE」の文字。中を開けると、そこには大切そうに納められた“紙くず“。
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-たどり着いたのは、映画から生まれた儚くも美しいお菓子

まるで謎解きのようなその正体は、なんとお菓子。見た目は“紙くず”そのものですが、ひとたび口にいれればホロリと甘くくずれるフランスのお菓子・ヌガーを紙グズに模したもの。

「これは、『詩人の血』という映画から発想を得たものです」
そう話すのはcineca(チネカ)の土谷みおさん。物憂げな朝の雨が似合うアトリエでお菓子の物語を語ります。
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-たどり着いたのは、映画から生まれた儚くも美しいお菓子

「“詩を生み出すことは、血を伴うほどに苦しい”。映画『詩人の血』には、そんなことが描かれています。何かを生み出す行為はいつも、真っ白なところから。書いては丸めて、捨てて……何度も繰り返し形にしていくとても辛い作業です。詩に限らず、絵でもお菓子でも、自分のなかから何かを生み出すときの苦しみは同じだと思うんです」

土谷さんの話を聞きながらあらためて「NUDE‒紙くずヌガー‒」と名付けられたお菓子に目をむけると、髪の毛をくしゃくしゃにしながら机に向かい、生みの苦しみと戦う詩人の姿がみえてくるよう。
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-たどり着いたのは、映画から生まれた儚くも美しいお菓子

「なにかを生み出すことは、自分の心のなかをずっと覗き続けること。お菓子の名前『NUDE』には、自分を“はだかにする”そんな意味を込めました」

なるほど、お菓子に秘められた謎解きの答えが分かり、気になるのは丸められた紙くず(のようなヌガー)の中身。何が書かれているのか、思わず広げて覗き込みたくなるほど、気づけばお菓子が語る物語に引き込まれていました。

映画とお菓子を掛け合わせた、美しくもユニークな作品たち

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-たどり着いたのは、映画から生まれた儚くも美しいお菓子

それぞれ映画にまつわるストーリーが隠されたcineca(チネカ)の甘い作品たち。それは、土谷さんの大好きな「映画」と「お菓子」の素敵な掛け合わせから生まれました。

フランスの女流画家を描いた映画『セラフィーヌの庭』をテーマにしたのは、絵の具がついたパレット型の「palette ーきょうをいろどるジンジャークッキーー」。そして“小石”のようなユニークなラムネ「a piece of ー時間を溶かす静かのラムネー」は、病に倒れ意志の疎通がとれない「閉じ込め症候群」になった男性の映画『潜水服は蝶の夢を見る』を元にしたもの。
ほかにも宝石のような美しいお菓子「herbarium ー甘い標本ー」に、遊び心たっぷり猫のフードに似せた「kalikali ーネコ気分なクッキー」、どれもこれも見る人に新鮮な驚きと感動を与えます。その完成度と存在感は、もはやアート作品と呼ぶほうがしっくりくるほど。

土谷さんの感性に触れたくて、お菓子のこと、映画のこと、cinecaが出来るまでの物語を紐解いてみました。
自分の「好き」には
とことん、まっすぐ
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-たどり着いたのは、映画から生まれた儚くも美しいお菓子

「小さなころの記憶は強くないけれど、食べ物の思い出は鮮明です。その記憶が自分を語っていると思います」と土谷さんは幼いころを振り返ります。

いつもの駄菓子屋さんで買っていたお気に入りのお菓子ヨーグル、家族旅行で訪れた伊勢志摩では赤福が美味しかったこと。小さなころから「お菓子が好き」というのは、絶対的に土谷さんの中心に鎮座しているものでした。
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-たどり着いたのは、映画から生まれた儚くも美しいお菓子

自分の「好き」に正直な土谷さんが、空間デザインを学ぶため多摩美術大学に入学したときのこと。

「入った瞬間に、違うと思ってしまったんです。漠然と『いいな』と思って選んだ学科だけど、いざ入ってみたら建築に力を入れた学科なことに気づいて……。そんなに建築はやりたくないと直感で感じたことを覚えています。しょうがないので置かれた環境で自分ができることを探しました。課題をこなすうちに、建築やランドスケープなどの空間をつくるとき、まず平面図から作っていくことが好きなことに気づいたんです」

その気づきがあってから、土谷さんは建築系の学科に身を置きつつ、独学でグラフィックデザインを学びはじめました。在学中にグラフィック作品を制作し続け、まわりが建築模型を作るなか、とうとう最後もひとり、グラフィックの卒業制作を作りあげたといいます。

そこには迷いも疑いもなく、とにかくまっすぐ。自分の「好き」からズレたとき、違和感を感じたときは、ごまかしが利かないようです。
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-たどり着いたのは、映画から生まれた儚くも美しいお菓子

多忙な日々のかたわら
余念のない「お菓子リサーチ」
卒業後、グラフィックデザイナーとして働き出した土谷さんを待っていたのは、徹夜で仕事し、タクシーで帰宅することも多い忙しい日々。

「気がつくと片手にお菓子をもって仕事するようになっていて(笑)。お菓子がないと仕事が進まない!とばかりに、デスクまわりにお菓子を並べ、コンビニでお菓子リサーチをするように。新発売のお菓子はすかさずチェック、世の中にはどんなお菓子があるのか各地のお菓子を調べたりもしました」

お菓子リサーチにかなりの時間を費やすようになっていたころ。ふと、自分の表現手段に“違和感”を感じました。そのときやっていることと、自分のやりたい表現との間に差があるような気がしたのです。
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「自分の頭のなかにあるものを、どんなものでどう表現したらより伝わるのか考えたんです。そのときに、パソコンでのデザインという手段に限界を感じました。では、なにで表現したらいいのか……と模索していたそのとき、ひらめいたのが”お菓子”でした。自分のやりたい表現との違和感を解消するのは、もしかしたらお菓子なんじゃないかって、急に思いついたんです」

思いついたら即行動の土谷さんは、早速お菓子の学校に通うことを決意。そしてその後「気がつけばお菓子を始めていた」といいます。
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お菓子に恋してひたすら向き合い続ける

お菓子を表現手段として仕事をはじめてもうすぐ7年目。

「これまで生きてきて今が一番自分のエネルギーに集中していると思います。勤めていたときは本当に忙しくて『このままでは死ぬ』と思っていましたが、たぶん今の方が全然忙しいです。プロフェッショナルとは「そのことに身を削る覚悟があるかどうかだ」ということにcinecaの仕事をつうじて初めて気がついたかもしれません。これだけお菓子との対話が多いと、いつかこの恋が醒めてしまうかもしれないと思うこともあります。昔からずっと自分を探し求めていて、そのひとつを見つけた気がしますが、本当の答えは最期までもわからないかもしれない。だからそれまでずっと私は学び、作り、思考し続けていきたいです。」

そう土谷さんは、穏やかな口調で力強く話します。
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-たどり着いたのは、映画から生まれた儚くも美しいお菓子

お菓子を食べるときの、心が弾むような気もち。そして、子どものころに感じた駄菓子へのときめき。

「それが私の原点かもしれません。『なんだろう?』ってのぞき込んだら驚きがうまれるような、私の作るお菓子はそういうものでありたいと思っています。お菓子へのときめきを自分だけでなく私のお菓子に出会った人にも持ってもらえるように、その一瞬の空気を作れるように考えて制作しています」
アイディアをカタチにしていく
生みの苦しみ
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-たどり着いたのは、映画から生まれた儚くも美しいお菓子

なんどもなんども、納得いくまで試作を繰り返す。毎回、アイディアからお菓子になるまでの試行錯誤は、生みの苦しみそのもの。それが報われると感じるのはどんなとき?と聞いたものの「あまりない」といいます。

「自分のアイディアがカタチになり試作が上手くいったときには、喜びの波がやってくるけれど長くは続きません。その後、いくつもの改良点がみえ、そのハードルをひたすら乗り越えていく作業が待っているから。もちろん、お客さんの手に届いたとき小さな達成感がありますが『もっといいものを作りたい』『新しいものを作りたい』という想いが沸いてきて、満足することがない。だから続けられるんでしょうね。ずっとその繰り返しです」
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納品が重なると、一週間アトリエに缶詰になることも少なくない土谷さん。これほどまでに繊細なお菓子をひとりで作るのは、やはり想像以上に大変な作業です。
「作るのにすっごく時間かかるんですよ、私のお菓子。作業しながら『なんでこんなに大変なお菓子考えちゃったんだろう』と思うこともあります」

行き詰まったときに気もちを救ってくれるのは、映画。
「さんざん溜め込んでから、大抵なにかの映画がきっかけで爆発するんです。映画を観ていると、どこかしらでそのときの自分に刺さる部分があって『わたしのことだー』と共感して、わーって泣いて。そうすると少し気が晴れます(笑)」

土谷さんの作品たちは、まるで人の手で作られたのではなく、最初からその形で存在していたかのような完成度。その完成度を維持するには、大きな苦労を伴いますが、それを支えてくれるのもまた映画なのです。
cinecaの素になる
600本の映画たち
土谷さん曰く「映画は、私にとって生活音のようなもの」。映画が流れていることが日常そのものだというほど、いつもBGMのように映画を"流し観”しているそう。自宅の壁一面に並んでいるという映画のDVDは、なんと600本!そのなかからお菓子の題材となる映画が選ばれることも多いといいます。

映画についてのお話で意外だったのが、観る映画は「雑食」ということ。
「もともとはアンダーグラウンドなもの、カルチャー寄りのものを観ていましたが、最近はハリウッド映画や若者向けの邦画など、本当にいろいろです。起承転結がハッキリしてハッピーエンドに向かっていくものは安心して観れますし、最高の娯楽ですよね。ただ、cinecaの題材にするのはやはり、『余白』を大事にしているような作品。こちらに考えさせる空間を作ってくれているので、そこから答えを導いてお菓子を制作しています」

初心を取り戻すための"窓"

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-たどり着いたのは、映画から生まれた儚くも美しいお菓子

9月に完成したアトリエ「四月」は、大好きな映画監督オタール・イオセリアーニの映画と同じ名前。「初心を忘れないように」という想いが込められています。

映画『四月』は、なにもない部屋に住んでいた幸せなカップルが、裕福になるほど心がすれ違っていき、初心を忘れた自分たちをどうにかしようと、窓からすべてのものを投げ捨ててしまう……というストーリー。

「映画では、窓からものを捨てるシーンが象徴的なのですが、アトリエ改装中にデザイナーさんが提案してくれた什器も思いがけず窓の形になっているのに気がついて。さらに『四月』のロゴも窓の形を意識したものにデザインしてもらいました」

“お菓子へのときめき”を忘れてしまいそうになったときは、映画『四月』のカップルのように、“窓”から大事なものを取り戻せそうです。
ひとつひとつそれぞれに違う世界観をもつcinecaのお菓子。窓にも劇場にもみえる什器で、独立したスペースを

ひとつひとつそれぞれに違う世界観をもつcinecaのお菓子。窓にも劇場にもみえる什器で、独立したスペースを

窓を感じるアトリエ名「四月」のロゴデザイン

窓を感じるアトリエ名「四月」のロゴデザイン

光を含んできらめく「herbarium ー甘い標本ー」、アート作品のような「NUDE‒紙くずヌガー‒」。cinecaのお菓子を眺めていると、いずれ食べられてしまう運命にあるのがなんとも切なくなってしまいます。

「その儚さのようなものに、美しさも伴うと思うんです。賞味期限があることは、一番の難関で壁でもありますが、その制限のなかでの表現を考えるのもまた楽しいです。『食べられなくて賞味期限すぎちゃいました』とかいわれちゃうんですけど……」

恋におちるほど好きなものを探し続けいつの間にかいきついたのが、映画とお菓子。「好きなものを嫌いになりたくない」といいながら、くる日もくる日もお菓子を食べ、考え、作り続ける土谷さんです。


そうして生み出されているのは、目にする人に驚きとときめきを与えてくれる作品たち。
じっと耳を澄ませば、儚くも美しいcinecaのお菓子が甘い物語を語りはじめます。
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-たどり着いたのは、映画から生まれた儚くも美しいお菓子

(取材・文/西岡真実)
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cineca|チネカ

“お菓子”という枠を超え、手のひらサイズのすこし新しい世界へ。cineca(チネカ)は映画を題材にした物語性のあるお菓子を創案、制作するアートのようなお菓子ブランドです。驚きと感動の詰まった繊細なお菓子たちは、すべて土谷さんによる手作り。大切な誰かに贈りたくなる美しいお菓子は、全国のショップやギャラリーの企画イベントへの参加、納品などのほか、月に1度アトリエにて出合えます。


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