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vol.81 青果ミコト屋 - 畑から食卓へ。
“想い”をつなぐ、旅する八百屋

「豊かさって、幸せって、なんだろう?」そんな疑問を経てはじまった青果ミコト屋。実店舗をもたない「旅する八百屋」と称してキャンピングカーを走らせ、農家さんのもとへ、はたまた野菜を売りに全国各地に出向きます。愛情たっぷりに育てられた野菜を農家さんの想いとともにお客さんにつないでいる代表の鈴木鉄平さん・山代徹さん。真摯に食をみつめるミコト屋のこれまでのストーリーを伺いました。(2018年04月06日作成)

写真:藤原慶 文:Amorpropio編集部

起きぬけの乾いた身体を潤そうと冷蔵庫から取り出したのは、赤く熟れた小ぶりなトマト。洗うのもそこそこにキッチンで立ったまま、がぶり、とかぶりつく。
おだやかな甘味と酸味。そして後からほんのりやってくる塩気が身体に染みていく……しみじみ、美味しい。
vol.81 青果ミコト屋 - 畑から食卓へ。
“想い”をつなぐ、旅する八百屋

それは、青果ミコト屋さんで購入した塩トマト。

「このトマトは海のそばの塩分を含んだ畑で作られていて、不思議なことに同じ株でとれたものでも糖度が高いフルーツトマトと塩気を含んだ塩トマトに分かれるんです」
店先での会話を思い出し、この子は海をみながら育ったのかもしれないと想像すると、はるばる自分のところへやってきたトマトが愛おしく、美味しさがさらに増すような気がします。

"想い"を食卓へつなぐ、懐かしくも新しい八百屋

vol.81 青果ミコト屋 - 畑から食卓へ。
“想い”をつなぐ、旅する八百屋

どんな畑で、どんな人が作った野菜なのか。
食事をするときにそこまで想像をめぐらせる人は、どれほどいるでしょう。
――生産者さんの顔が浮かぶような食卓を作りたい

実店舗をもたない「旅する八百屋」と称してキャンピングカーを走らせるのは、青果ミコト屋。北から南まで全国の農家さんに会いにいき、その想いを店先の会話からお客さんにつなぎます。
vol.81 青果ミコト屋 - 畑から食卓へ。
“想い”をつなぐ、旅する八百屋

ミコト屋を立ち上げて約7年、その八百屋らしからぬシティボーイ風の出で立ちと「旅する八百屋」という風変わりな謳い文句から、今や八百屋の枠をこえ、ファッション誌から新聞まで多くのメディアに引っ張りだこ。

「僕らは好きなことをやっているだけ」と話すのは、代表の鈴木鉄平さんと山代徹さん。2人の自由でのびやかな空気は、一緒にいると余分な力みがほぐれるような心地よさを感じます。
「青果ミコト屋」代表の鈴木さん(左)と、山代さん(右)。事務所の裏に広がる気持ちのよい竹林でお話を伺った

「青果ミコト屋」代表の鈴木さん(左)と、山代さん(右)。事務所の裏に広がる気持ちのよい竹林でお話を伺った

月1回行われるメイド・イン・アース自由が丘のイベントに出店。この日店先に立つのは、山代さんとスタッフの佐藤さん

月1回行われるメイド・イン・アース自由が丘のイベントに出店。この日店先に立つのは、山代さんとスタッフの佐藤さん

価値を感じるのは、
人間味のあるやりとりや
作り手の温度があるもの
今でこそ、仕事を通して”食”と深く関わっている彼らですが、「2人とも特別に”食”にこだわった家庭で育ったわけはない」と鈴木さん。
「ごく普通の子供時代でしたよ。ただ、食に関することで印象に残ってるのは、買い物はスーパーではなく決まって駅前の商店街。八百屋や魚屋のおじちゃんと会話をしながら買い物する母親の姿ですね」
vol.81 青果ミコト屋 - 畑から食卓へ。
“想い”をつなぐ、旅する八百屋

この日の売れ筋は青々としたクレソン。根っこ付の新鮮なクレソンは、「クレソン鍋」がおすすめの食べ方だとか

この日の売れ筋は青々としたクレソン。根っこ付の新鮮なクレソンは、「クレソン鍋」がおすすめの食べ方だとか

取材した3月上旬は、冬野菜が終わり春野菜が出回る前の端境期にあたる。「野菜の種類は少ないけれど、この時期ならではのものもあるんですよ」と鈴木さん。手作りの切り干し大根や玄米餅などもならぶ楽しい顔ぶれ

取材した3月上旬は、冬野菜が終わり春野菜が出回る前の端境期にあたる。「野菜の種類は少ないけれど、この時期ならではのものもあるんですよ」と鈴木さん。手作りの切り干し大根や玄米餅などもならぶ楽しい顔ぶれ

神奈川県内の高校で同級生として出会った2人。直感のおもむくまま突き進む鈴木さんと、広い視野で客観的にものごとをみる山代さん、バランスのいいベストコンビは部活も放課後もいつも一緒。2人の遊びの才能は天才的でした。

「自分が楽しいのはもちろん、人を楽しませることが大好きなんです。仲間の誕生日には、毎回趣向をこらしたサプライズを考えていましたね。親と離れて暮らす友人のために、なけなしの金で広島まで行って、友人に内緒でその子の両親からビデオレターでメッセージをもらったり(笑)」と、目を細めて楽しそうに振り返る鈴木さん。

食に関してはというと、当時は”ジャンク”なものも食べていたけれど、その一方で大好きだったのは、昭和のにおいがする人情系のお店。
「明日にも潰れてしまいそうな定食屋を見かけると、入らずにいられなくて。俺たちが行かなきゃ潰れちゃう!って(笑)」
「それは、いまでも変わらないよね」と山代さんがつけ足します。
vol.81 青果ミコト屋 - 畑から食卓へ。
“想い”をつなぐ、旅する八百屋

「味は”まあまあ”なことも多いけど、おじちゃんとおばちゃんの掛け合いをみてほっこりするのが好きなんです。同じ”食べる”なら、そういうところでお金を使いたい。食自体への意識はまだ薄かったけど、温度感のあるものや心のこもった料理をチョイスしたいと思ってました」


――お金に責任と意志をのせ、作り手の想いを感じるものに使いたい。

当時から、ほとんど体感的にそういった想いをもっていたという鈴木さん。それは深いところで脈々とつながり、後にミコト屋を形成する大事なパーツになっていきます。
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“想い”をつなぐ、旅する八百屋

人生の疑問に答えをくれたのは、農業だった

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“想い”をつなぐ、旅する八百屋

別々の大学に進学し社会人になっても、変わらずいつも一緒だったという2人。しかし、満足な収入を手にしていた26歳のころ、それぞれ仕事や人生に対して大きな違和感を感じていました。鈴木さんが以前から居心地悪く思っていたのは、「お金=豊かさ」という世の中の雰囲気。山代さんもまた、このまま社会人を続けていくことに疑問を感じていました。


「豊かさとは、幸せとは、なんだろう?」
その答えを求めるように、2人は連れ立ってインドやネパールなど発展途上の国々へと旅立ちます。


決定打となる”それ”に出合ったのは、旅の後半、太陽のリズムとともに暮らすネパールでのこと。ヒマラヤの険しい山を制覇しようとトレッキングで挑んだところ、予想以上の厳しさで精神も体力もギリギリの状態に。

そのとき、行商のおばあさんが頭に載せたカゴから取り出したのが、小ぶりな林檎でした。一口かじるごとに疲れ果てた身体に染みわたっていくような美味しさに、満ちあふれる「何か」を感じたといいます。
「食に興味をもつようになる理由はたくさんあったけれど、その林檎がひとつの大きなきっかけだった」と鈴木さんは語ります。

求めていたものが”食”にあるような気がして、帰国後2人は食の世界へと足を踏み入れ、のめり込んでいきました。
vol.81 青果ミコト屋 - 畑から食卓へ。
“想い”をつなぐ、旅する八百屋

vol.81 青果ミコト屋 - 畑から食卓へ。
“想い”をつなぐ、旅する八百屋

おのずと興味の対象は、
食から土へ
食の世界を探求していたころに出合ったのが、自然食材の会社ナチュラル・ハーモニー。当時はまだ珍しい自然栽培という農法で作られた野菜を中心に、食材の宅配や店舗販売を展開していました。
そこで、大将と慕う代表の河名秀郎さんから教わった「自然栽培」の理念に、2人は衝撃を受けました。今までの農業の常識をくつがえす栽培方法と、人生にも通ずる農業哲学に、打ちのめされるような感覚だったといいます。

自然界のサイクルを尊重し、農薬も肥料も使わず、土本来の力を引き出して作物を育てる。慣行農法*では悪者とされる雑草や虫でさえも、自然の営みの一部であり必要なものとする自然栽培の教えは、単なる農法を超え、人生の本質を教えてくれるようでした。
*慣行農法ー農薬や肥料を使用して農産物を作る世間一般で行われている農法のこと
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“想い”をつなぐ、旅する八百屋

鈴木さんと山代さんは、自然栽培を学ぶべく農家さんのもとで寝食をともにしながら1年の研修を行い、その後さらに、千葉のいすみ市にある循環型の暮らしを営む宿泊施設・ブラウンズフィールドで農業を実践していきました。

「ブラウンズフィールドでは、とにかくすべてが潔くてシンプル」と鈴木さん。
「自分が今までどれだけ余計なもの、余計な考えをもっていたかと思い知らされました。そして、何より”クリエイティブ”なんです。たとえば、野外でご飯を食べるときに器や箸がなかったら、木や枝から作るとか。誰もが『豊かに暮らしたい』と思っているけど、それは『モノを所有する』ことではない。たとえ何もなくても、そこから何かを生み出すクリエイティブな暮らしそのものが、豊かだと感じたんです。そういうマインドが染みついた生活をしていたいなって」

食に興味をもち、農を学び、シンプルな暮らしを知っていくなかで、それまで抱いていた「豊かさ」や「幸せ」に対する疑問や違和感がどんどんほどけていくようでした。
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“想い”をつなぐ、旅する八百屋

やるせない現実を目の当たりにし
農家ではなく「八百屋」へ
なぜ、農家ではなく八百屋になったのか。
それは、よりよい野菜を作ろうと奮闘する人たちを取り巻く状況に、もどかしさを感じたのがきっかけでした。

研修でお世話になった3代続く農家さんは、自然栽培と並行して従来の慣行農法を続け、独自の販路をもちながら農協にも卸していました。それは、先代から畑とともに受け継いだ農協や地域の人との関わりも大事にしたいという想いから。

「ただ、農協では、自然栽培の野菜も慣行農法のものも、一緒くたに扱われます。手間暇かけた自然栽培の野菜が、規格外という理由でたくさん弾かれてしまうのを目の前で見て、それはもう……切なくなりました」と、鈴木さんは表情に悔しさをにじませます。「自然栽培の農家さんは、収量を減らす覚悟で土づくりから時間をかけて野菜を育ててる。それが報われないシステムが、とにかくもどかしくて」
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“想い”をつなぐ、旅する八百屋

もともと、スーパーに並ぶ野菜の形がぜんぶ一緒なことに違和感を感じていたのもあり、「野菜の形がバラバラなのも個性」と認める流通が必要だと感じました。

「それに、見た目ではない野菜の本当の価値や背景を農家さんの人柄もふくめて伝えれば、食べる人は農家さんのことをイメージできる。すると野菜はより美味しく感じるし、余す所なく大切に料理するでしょ。農家さんのほうにも、お客さんの感想をフィードバックしたら”やりがい”につながりますよね」

『畑と消費者をつなげよう』とはじまったのが、自然栽培のお野菜を取り扱う「青果ミコト屋」でした。
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“想い”をつなぐ、旅する八百屋

お客さんの好みを聞きつつ各野菜の魅力やおすすめの調理法はもちろん、ときには、どんな畑でどんな人が作ったかまで話がおよぶのが、ミコト屋ならでは

お客さんの好みを聞きつつ各野菜の魅力やおすすめの調理法はもちろん、ときには、どんな畑でどんな人が作ったかまで話がおよぶのが、ミコト屋ならでは

誰も傷つけたくないから、あえて「こだわりすぎない」

vol.81 青果ミコト屋 - 畑から食卓へ。
“想い”をつなぐ、旅する八百屋

2011年、自然栽培の野菜を専門に扱う八百屋としてスタートしたミコト屋。しかし今は、有機農法(オーガニック)*の野菜も扱い、いかにフレキシブルでいられるかに重きをおいているといいます。

その理由は、「だれも傷つけたくないから」。

「全国の農家さんに会って話していくうちに、僕らが自然栽培を掲げることで、誰かを否定することになったり傷つく人がでてきちゃうことに気がついたんです」と山代さん。

鈴木さんもその言葉にうなずきます。
「土地も条件も作る人もさまざまだから正解なんてないのかも、と思うようになりました。もちろん自然栽培は今でも僕らにとって特別なものだし、信念として持ってる。けど、こだわりすぎないようにしてます」
*有機栽培(オーガニック)ー農薬や化学肥料を使わず、動物性・植物性の堆肥を用いた栽培方法
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“想い”をつなぐ、旅する八百屋

「そのほうがお客さんも構えず気軽に来てくれるしね。最近、若い男性のお客さんも増えたのがうれしくて。僕らがこういうスタイルで、食に関係ない音楽フェスなんかにも出店することで、若い世代にこだわりの野菜を手にとってもらうきっかけになる。自然栽培が何か分からなくても『美味しい』ってまずは感じてくれればいいんです」と、山代さんは晴れやかに笑います。

自分たちの活動をとおして、自然志向でなくとも新たにミコト屋の野菜を手にとる人が増えたこと。
それが何よりうれしい、と話す2人。
vol.81 青果ミコト屋 - 畑から食卓へ。
“想い”をつなぐ、旅する八百屋

ミコト屋の在り方について鈴木さんは「極端にいうと今は、農法や技術よりも、”人の想い”がこもったものを何より優先したい」と話します。考えは変わっていくものだし、これからも柔軟でいたい、とも。

”こだわり”はときにぶつかり合ってしまうもの。違う価値観も受け入れたいという考えから、2人ののびやかな空気の理由がみえるような気がしました。そしてその姿勢は、雑草や虫も敵とせず、すべてが心地よく調和する自然栽培の畑の様子を思い起こさせます。


振り返れば、明日にもつぶれそうな定食屋で”人情”にお金を払っていたあのころから、2人の大事なものはずっと変わりません。

人の想いは、人を介してつながれていく。

ミコト屋は、今日もどこかの店先で、野菜とともに農家さんの想いを届けます。
畑から食卓への架け橋として。


(取材・文/西岡真実)
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青果ミコト屋|せいかみことや

「旅する八百屋」と称してキャンピングカーで全国の農家をまわり、直接生産者と会ったうえで野菜を仕入れる実店舗をもたない小さな八百屋。高校の同級生である鈴木鉄平さん・山代徹さん2人で立ち上げ、「農家さんの想いとともに野菜を届けたい」と、自然栽培を中心としたオーガニック野菜を扱う。定期宅配と移動販売で全国各地のマルシェやイベントに多数出店。若い世代にもオーガニックの野菜を身近に感じてもらえるよう八百屋という枠を超え、様々なジャンルのメディアやイベントに出向いている。

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