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vol.86 御食事ゆにわ・ちこさん- 人生を変えた"塩むすび"で、
食べる人の心にぬくもりのバトンを

ごはんというのは不思議なもので、「誰かのために」と作り手の想いが込もったものには、とたんに特別な美味しさが宿ります。作ること・食べることの大切さをあらためて示してくれる、そんなお食事処が大阪府にある「御食事ゆにわ」。店長のちこさんは、かつて自らが"塩むすび"に救われた経験から、ごはんの大切さに目覚めました。食べる人の心にぽっと温かなものを宿す料理を提供したいと、日々、真摯に食材と向き合い、丁寧に慈しむように料理を作ります。(2018年07月06日作成)

写真:金洋秀 文:Amorpropio編集部

心に温かみが宿る 御食事ゆにわのごはん

大阪の郊外にある樟葉(くずは)駅から歩くこと15分ほど。閑静な町並みに佇むちいさな店には、全国からお客さんが訪れます。はるばる足を運ぶ理由は、少し風変わりなその店で出てくる、ほかの店とはひと味違うお料理です。

つやつやと輝く白いおむすびに、お味噌汁、おしんこ、焼き魚……それは味を重ねた華美な料理ではなく、古くから日本の食卓で親しまれてきた素朴な品々。一見なんでもないようなシンプルな料理が、とびきり美味しいのです。
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食べる人の心にぬくもりのバトンを

瑞々しく甘い玉ねぎのグリル。ふわっとおだしの香りが広がるお味噌汁。細切りにした大根のなますはどこまでも透明で美しく、思わず見惚れてしまうほど。ひと目で丁寧に作られたものだと分かる繊細さで、しみじみと染み渡るような味わいです。

それぞれの素材の「らしさ」を活かした料理たちは、お皿のうえでどこか誇らしげにも見えます。
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食べる人の心にぬくもりのバトンを

祈るような想いを込めて作られる料理は、ひとくち食べるごとに温かな幸福感が胸に広がるよう。

手を合わせていただきますをし、そっと椀をもつ……この店で食事をすると自然とひとつひとつの所作が丁寧になります。店内や料理、隅々にまで作り手の細やかな心配りが行き届いているのを感じ、自然と作り手や食材への敬意がこみあげるからでしょうか。


そんな唯一無二ともいえるお店「御食事ゆにわ」ができたきっかけは、店長であるちこさんの人生を変えた、ひとつの"塩むすび"でした。

人生を変えてくれた、白いおむすびとの出会い

ちこさんといえば"とびきりの笑顔"、というほど、一緒にいる人まで元気にする笑顔の持ち主。12年目となる御食事ゆにわの店長として、忙しくお店を切り盛りしています。
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食べる人の心にぬくもりのバトンを

今でこそ、トレードマークの笑顔を絶やさず、その場その場を全力で楽しむちこさんですが、過去には身動きがとれなくなるほど心を閉ざした時期がありました。
「17歳のころですかね、人と接することや食べること、全てが嫌になってしまったんです」


高校では、勉強や部活、アルバイトに習い事まで上手くこなし、傍目には充実していたようにみえたちこさん。表面上の”順風満帆”さとは裏腹に、周囲に合わせ自分の気持ちを押し込めていたせいで、心は苦しく、疲労がたまっていました。そして、ついに糸がプツリと切れたように無気力になり、なにひとつ手につかなくなってしまったのです。


それまでの生活から一転、うまくいかない状況に戸惑いながらも、どう軌道修正したら良いのか分からない。

ただ暗闇にもがくだけだったちこさんを救ってくれたのが、「塩むすび」との出会いでした。
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食べる人の心にぬくもりのバトンを

勉強をする気力がないまま、高校受験のため学習塾に通うことになったちこさんですが、それが最大の転機となります。家庭的な雰囲気のその個人塾では、ひとりひとりに机が与えられ、自主的に学習を進めていくスタイル。そして塾なのになぜか、先生と奥様の手料理が頻繁に振る舞われました。

「それが、とんでもなく美味しい料理なんです!ただ、出てくる時間はまちまちで決まってなくて。最初の2、3ヶ月は勉強よりも、美味しいものと出会いたいがためにずっと塾に居座ってました(笑)」
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食べる人の心にぬくもりのバトンを

心の氷を溶かしてくれた
塩むすび
そこで定番としてよく出てきたのが、塩むすび。
「ただの白いおむすびなんですけど、それがびっくりするほど美味しくて!しかも、食べていくたび私の心にできた冷たい氷のようなものが、おむすびのぬくもりで溶けていくような気がして……なにをしてもダメで途方にくれていたのに、少しずつ心に温かさが戻り、前向きになれたんです」

ただの白いおむすび。なのに、ほおばるたび、不思議と涙がでてくる日もあれば、微笑みが浮かんでくる日、笑いが止まらない日もありました。それは心の奥にぎゅっと押し込められていたちこさんの感情が、解きほぐされていく過程だったのかもしれません。
心に深い幸せと安心感をあたえてくれる手料理の数々に、ちこさんだけでなく、ほかの塾生たちも癒やされ、どんどん穏やかになっていくようでした。
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食べる人の心にぬくもりのバトンを

「なぜ、ただのおむすびにそんな影響力があったのか、当時は不思議でしたけど、やっぱり作り手の”想い”だなって。先生と奥様が『この子たちに手のぬくもりがあるものを食べさせたい』と、忙しいなか愛情込めて作ってくださっていたことを後々知ったんです。あの料理は、仕事や作業としてでなく、本当に食べる人を想って丁寧に作られていたものだったんだって」
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食べる人の心にぬくもりのバトンを

想いのこもったごはんで心を取り戻したちこさんは、「この先どんなことがあっても、このごはんさえあれば幸せでいられる」と確信のようなものを感じます。
「涙がでるような、心が元気になるような料理を私も作れるようになりたい、この先もこんなごはんを食べて生きていきたいって思ったんです。職業や暮らしよりも、優先順位がまず”ごはん”に変わりました」


そうして勉強する気力を取り戻したちこさんは、栄養士科のある短大を受験し見事合格。先生に頼み込み、大学が終わってから毎日お手伝いのため、塾に通わせてもらうことにしました。
先生のもとでは、掃除からはじまり、暮らしの作法、考え方……あらゆる物事の”本質”を学ぶことができたといいます。同じように先生を慕い塾に集う仲間たちと一緒に、先生の幅広い知識やその人間性からくる深い考え方を聞く時間は、濃いものでした。
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食べる人の心にぬくもりのバトンを

チャンスをくれ、厳しさを教えてくれた恩師

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食べる人の心にぬくもりのバトンを

そして、就職活動に差しかかるころ、ちこさんたちは、塾があるビルの1階部分に「テナント募集」と張り紙がされているのを目にします。

「ねえ、ここを使ってみんなでなにかやったら面白いんじゃないかな」
誰かが発したひと言は、「先生から学んだことを活かして飲食店をやりたい」という団結した想いに変わっていきます。
しかし、仲間たちで集まり頭をひねったものの、お店を開く資金も知識もない……悩んだ末、先生に相談することに。すると、ちこさんたちの堅い意志を確認した先生は、その晩のうちに必要な書類を用意し、翌日の朝には銀行で資金調達をしてくれたといいます。
vol.86 御食事ゆにわ・ちこさん- 人生を変えた"塩むすび"で、
食べる人の心にぬくもりのバトンを

「考えられないことですけど、ひと晩のできごとですよ。今振り返ると、飲食店を経営することがどんなに大変なことか分かってなくて無謀でしたが、先生はそんな私たちの未来に懸けてくれたんです」

迷うことなく資金とチャンスを提供してくれた先生は、飲食店を営むことの厳しさも教えてくれました。メニューの監修からお店の切り盛りの仕方、さらには、昼と夕方からの営業前に先生に味のチェックをしてもらい、合格をもらわなければその日の営業はできない、という厳しいルールまでありました。

閉店の後、掃除が甘かったときは、ようやく家に帰ったところを呼び戻され、「中途半端な気持ちでやるなら辞めなさい」と叱責されたことも。
ちこさんたちは精神的にも体力的にもギリギリになりながら、飲食店を営むことの大変さと、それに伴う責任について否が応でも考えさせられることになります。
「ゆにわ」の店名は、祭事で神様をお招きする場所を意味する古神道の言葉から。お米を炊くまえに一礼二拝をし、祈りと想いを込めて厨房に立ちます。お塩をひとつまみ入れるのがゆにわ流

「ゆにわ」の店名は、祭事で神様をお招きする場所を意味する古神道の言葉から。お米を炊くまえに一礼二拝をし、祈りと想いを込めて厨房に立ちます。お塩をひとつまみ入れるのがゆにわ流

料理を作る気持ちが
“仕事”になってしまわないように
vol.86 御食事ゆにわ・ちこさん- 人生を変えた"塩むすび"で、
食べる人の心にぬくもりのバトンを

先生が求める味の基準は毎回厳しく「お店として中途半端なものは出せない」と一切の妥協がありません。
ある日、開店時間が迫っているのに、おからハンバーグの味がなかなか合格にならないことがありました。それまでに2回、開店できなかった苦い経験のあるちこさんたちは、なんとか美味しい料理を作ろうと必死になっていました。

しかし、なにが違うのか分からない。もう作りなれているメニューで、手順も間違っていないはず。なにより、よりすぐりの材料を使っているのだから、美味しくないわけがないのです。

いよいよ開店時間まであと5分というとき、厨房にやってきた先生が、並べられた形成済みのハンバーグをおもむろに手に取り"ぽん、ぽん"とやさしく包みなおしました。

「それだけなんですけど、焼いて食べてみたら、すっごく美味しいものに変わっていたんです!『あぁ。食べる人への思いやりが足りてなかった』と。時間に間に合わせることに頭がいっぱいで、心が伴わず”作業”になっていたことに気がつきました。忙しくても絶対に欠かしてはいけないものがある、と教えていただいたようでした」
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食べる人の心にぬくもりのバトンを

料理を作ることは子育てと似ている

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食べる人の心にぬくもりのバトンを

「しっかりと愛情を受けて育った子どもって、生き生きとした表情で分かりますよね。食材も同じで、しっかり見て、気にかけて、丁寧に扱ってあげる。そうすることで、光り輝くごはんになります。"ダメな子ども"なんていないように、食材も”ダメな野菜”なんてない。うちではこだわりの食材を使ってますが、どんな食材であれしっかり愛情を注いであげれば、ちゃんと美味しくなってくれるんです。いつも厨房に立つたび、子育てしている気分です(笑)」
ちこさんは、やさしい眼差しでそう笑います。
ひと粒ひと粒、目で見て欠けたお米や黒ずんだお米を取り除いていく"ピッキング"と呼ばれる作業。ゆにわで提供するすべてのお米に対して行われています。丁寧に手間をかけた分だけ、食材は応えてくれる。実際に取り除くお米はほんのわずかですが、欠かすことのできない大事なひと手間です

ひと粒ひと粒、目で見て欠けたお米や黒ずんだお米を取り除いていく"ピッキング"と呼ばれる作業。ゆにわで提供するすべてのお米に対して行われています。丁寧に手間をかけた分だけ、食材は応えてくれる。実際に取り除くお米はほんのわずかですが、欠かすことのできない大事なひと手間です


御食事ゆにわの料理を食べたお客さんのなかには、食べ物への考え方が変わった、心が救われた、という人も少なくありません。

「そういってくださるのはうれしいですが、私たちが作っている料理は特別なものじゃない、誰にでもできることなんです。台所に立つとき『食べる人が笑顔になるように』と、温かい気持ちで作る。食べる人も、スマホ片手にではなくきちんと向き合い、温かい気持ちでいただく。そうすることで、作り手が食に込めた”ぬくもり”のバトンが、食べる人へ受け継がれていくと思っています」
vol.86 御食事ゆにわ・ちこさん- 人生を変えた"塩むすび"で、
食べる人の心にぬくもりのバトンを

誰かを想い、誰かのために台所に立つ行為そのものが「美味しい」を作る。母親の作る家庭料理をしみじみ美味しいと感じるのは、作り手の想いと食べ手の想いが重なるからなのかもしれません。


「かつて自分が塩むすびに救われたように、今度は自分が心ある食事を作り、また別の人を救いたい」

ちこさんの想いは、恩師から受け継がれたおむすびに込められ、食べる人の心にぬくもりを宿していきます。


(取材・文/西岡真実)



Information

御食事ゆにわの想いが、映画になりました
多くの人の協力のもと、2年という歳月をかけて作られた映画『美味しいごはん』が、2018年6月30日ユナイテッド・シネマ枚方(上映終了)を皮切りに7月7日ユナイテッド・シネマアクアシティお台場にて公開。上映終了後は自主上映スタイルとして、学校教育や企業研修の一環などでも使用可能となります。
「現代の日本に心ある食卓を」という想いで作られた映画は、台所の奇跡を見たような感動と発見があり、改めて食について考えさせられます。

「現代の日本に心ある食卓を」という想いで作られた映画は、台所の奇跡を見たような感動と発見があり、改めて食について考えさせられます。

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御食事ゆにわ|おしょくじゆにわ

学習塾で食べていた“あたたかみのあるごはん“を伝えたいと、塾の先生監修のもと店長ちこさんと仲間たちがはじめたお店。「いのちのごはん」はじめ著書多数。ちこさんの本を読み感動した人が、全国からお店に足を運ぶ。 現在「べじらーめんゆにわ」「茶肆(ちゃし)ゆにわ」「ゆにわマート」「パティスリーゆにわ」「ボディヒーリングサロンゆにわ」 など、開店当時のメンバーが運営するお店が近隣に点在。12年目となる今年には、映画「美味しいごはん」も公開となる。

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